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中川多理 Tari Nakagawa 【球体関節人形&人形写真】

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「物語の中の少女Ⅱ」-死の泉によせて



最後に皆川博子さんの「死の泉」から、双子の少女レナとアリツェを。

(実は当初は制作を予定していなかったのですが、「トマト・ゲーム」にて表紙に起用して頂いたのをきっかけに個人的に皆川博子祭りが心の中で開催されており、制作の合間にこの「死の泉」を読み始めたところ止まらなくなってしまい、虜となったまま思わず作り始めておりました。

快く許可をくださった皆川先生、連絡を取ってくださった今野さん、ありがとうございました!御二人が旧知の方で良かった…!)


+


「死の泉」-舞台は第二次大戦下のドイツ、ナチスの政策で設立されたレーベンス・ボルン(生命の泉)、カストラートの少年、古城に眠る名画、人体実験、…蠱惑的なモチーフと魅力溢れる登場人物達が織りなす目眩く壮大な悲劇と入れ子状の謎…

ボリュームはありますが一気に読めます。
まだ手にしていない方は是非。

(これ以下はお話の内容に抵触します。)




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「アリツェの血は熱いから 。二人のからだは 、腰から下が一つになっている 。二本の足と一つの腰から 、二人の胴が生えている 。」


魅惑的な登場人物たちの中から、人工的に作られた双子のシャムの少女・レナとアリツェを制作しました。

謎が謎を呼ぶ入れ子状の複雑な物語に、きっと色んな解釈があると思いますが、結合されて衰弱し肌も髪の色も褪せてきたアリツェと、それでも弱々しい声で語りかけるレナ…といった姉妹のやり取りを想像しながら作りました。アリツェの肌はワントーンくすませて、髪の色も白茶けた金髪にしています。

干からびて小さく、まるで人形の様な状態で発見されるシーンがあってそこもぐっとくるのですが…「死の泉」内の『死の泉』のラストシーンを胸に、あえて生きて言葉を交わしている二人を作りました。



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レナの生存の為にアリツェを植え付ける非道な実験の犠牲者ということで、接ぎ木のイメージがあったので、二人の接合手術部分は見目にわかりやすく縫合痕を残しました。



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(向かって左がレナ、右の眠り目の子がアリツェ)

先に成長させられたレナの方が身体も少し育っています。アリツェは12歳という年相応に。
首筋と手首に最上級のアーリア人の証である刻印を打ちました。

悲しい実験の被害者だけれども、それゆえに非現実的に美しい異形の形が際立つ様、地下坑道内で崩れ落ちた柱がまるで磔刑に見えるかのような形に組んで頂きました。

物語を読みながら幻視した二人の姿を具現化できたでしょうか…。


レナとアリツェは物語の中心人物では無く出番もそれ程多くはないのですが、悲劇の象徴としての姿形と存在感に心奪われてしまったのでした。少女性という面では、記憶を失い夢の中に生きているマルガレーテも、その象徴の様な魅力に溢れていたと思います。

今回は少女を制作しましたが、物語の軸となる少年達もいつか手がけてみたいと夢想します。


++


「死の泉」に寄せて二度のトークショウが開催され、吉田先生とは皆川先生との御交流や少女人形と文学作品の関わりについて、東雅夫さんには皆川先生の決して順風満帆ではなかった来歴や、作品の魅力、御本人の優しく可愛らしいお人柄に触れるエピソードなどの数々をお伺いしました。

皆川先生からは御手紙を頂戴し、人形達への御感想と暖かいお言葉をくださり涙。。東さんに御教授頂いた皆川作品巡りのリストを手に、また深く皆川魔界に沈みこんで行きたいと思いました。



++



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私達が書物を閉じる時、そして時を経てまた書物を開く時、その中に閉じ込められたまま物語の中を生きる少女達はいつでも私達を変わらない姿で出迎えてくれる。

ループする物語の中を永遠に生きる少女達、それは人形の在り方に似ている。その側を私達は寄り添い歩くだけ。いつの間にかすり抜け私達は老いて死んで行く。だからこそ、物語の中の少女も人形も至高の存在であり得るのかもしれない、と…この物語の少女達と寄り添う展示会を通してそんなことを思いました。







(「物語の中の少女」「物語の中の少女Ⅱ」参考文献・底本リスト)

◇死の泉 (ハヤカワ文庫JA) 皆川 博子
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〈トールサイズ・新装版〉
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/20662.html

http://www.amazon.co.jp/dp/4150306621/ref=cm_sw_r_tw_dp_IBdrwb1W30J38


◇海の百合 アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ
http://www.amazon.co.jp/dp/4309202012/ref=cm_sw_r_tw_dp_xLdrwb0075WBX


◇カファルド―小説 ボナ・ド・マンディアルグ
http://www.amazon.co.jp/dp/B000J94ZNU/ref=cm_sw_r_tw_dp_oMdrwb1D1M8X3


◇氷 (ちくま文庫) 筑摩書房 アンナ・カヴァン
http://www.amazon.co.jp/dp/4480432507/ref=cm_sw_r_tw_awdo_Y-grwb1VZQN7J


◇黒い美術館―マンディアルグ短篇集 白水社
http://www.amazon.co.jp/dp/4560045305/ref=cm_sw_r_tw_awdo_rehrwb0HW42CV

※「仔羊の血」収録

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「物語の中の少女Ⅱ」-カファルドによせて


もう一作制作した「カファルド」は、
マンディアルグの最愛の伴侶でありシュルレアリストでもあるボナの最初にして最後の文学作品です。

画家としての、シュルレアリストとしてのボナ独特の視線に誘導され、時間と空間をダイナミックに移動する、読みながらその浮遊感や疾走感に酩酊する様な感覚に陥り、謎めいた物語に惹き込まれてしまう…短い物語です。

人狼(ルー・ガルー)、夢遊病の少女、メキシコの墓地、満月の海、…シュールレアリスティックで視覚的で魅力的なモチーフがちりばめられていて、いつか人形化してみたいなと思っていた大好きな作品だったので、今回手がけてみました。

ボナの自伝的要素を多分に含んでいるので、主人公は少女というよりは成人女性であると思います。でも、シュルレアリストの女性達は皆、どこかに少女性を強く宿したまま生きている。少女の精神のままに身を投げてしまったウニカ・チュルンや、少女のまま生き永らえ魔女的資質を獲得したキャリントンやバロの様に。時に激情的で不安定なボナの気質は少女そのものであり、全編が少女的気分に満ちています。



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「カファルド」会場風景。
獣らしい躍動感・浮遊感に満ちた原作の雰囲気が出たかな?と。

人狼(ルー・ガルー)と人狼に成りかけている少女をイメージして制作しました。
少女の色味は月光色に。



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長大な移動によってほとんど露わになってしまう裸体に巻き付くシーツを纏わせ、少女の方は小さな牙と耳が生えかけています。
二匹にはアンティークのガラスボタンを片目ずつに分け合い、人でないものに変わりゆく異形の雰囲気を共有させました。


+


図らずも、「海の百合」も月明かりの元での儀式の物語、この「カファルド」も月を意味する人狼譚、もう一作の「死の泉」は塩岩抗の中、懐中電灯の灯りで少女達が発見されるシーンがあり、会場自体を薄暗く月明かりの下の様な照度に設定して頂きました。


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「物語の中の少女Ⅱ」-海の百合によせて


「物語の中の少女Ⅱ」展、撮影時のことを思い出しながら画像を整理しています。
今まで使っていた現像ソフトが使えなくなってしまったので、新しい海外製のソフトを導入。
四苦八苦していましたが、ようやく感覚的に使える様になりました。

初夏の頃に開催された「物語の中の少女」展、
その発展形として第二回目が今秋に開催されました。

いつもテーマの選択は自由なのだけど、「たまには何かくださいな」とお願いしたところ
「『海の百合』ではどうですか」とお題を頂きました。

++

マンディアルグは少女凌辱の極みでどの作品もたいへん好みであり、前回も『黒い美術館』の中から「仔羊の血」を選んだりしていたのですが、「海の百合」はその点少し異色の物語で、初読の印象で主人公のヴァニーナにあまり愛着が持てずにいたので、出来たらやりますねぐらいの感じで留め置いていたのでした。



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「海の百合」-サルジニア島にヴァカンス中の少女ヴァニーナが、一人の名も知らない青年を見定めひと夏の破瓜の儀式を果たす物語。終始儀式の遂行がヴァニーナによってコントロールされていく。

マンディアルグ作の中でこのヴァニーナは何処か異質で、能動的に行動的に彼女は予定した儀式に彼を導き遂行し完了する。





同行している友人ジュリエットの扱いや、青年に見せる背伸びした姿態、でも子供っぽさも残る態度に、少女の持つ厭な部分を見せられる様な、どこか女子に対する同族嫌悪的な印象を持っていました。


でも、作品として仕上げる事を想定して読み返した折に、やはりマンディアルグの筆致は美しく惹きこまれていきます。

終盤でヴァニーナの両親が虐殺されたエピソードを彼女自身が告白するシーンがあり、彼女の痛みが、血に塗れた母親と彼女との感応によって語られていくのですが

主導権を握り、全てをコントロールするかにみえた彼女が、賊に結えられ犯され殺された母親の姿と自分をなぞらえるかのような姿であり、此れこそが必要な精神的外傷への治療であった事、唐突に思えた彼女の行動が必然の行為であると改めて了解した時に、初めて彼女を愛らしいなと思えたのでした。



砂地に塗れて月光に晒され色を失った黒い絹の儀礼用の長いスカートと袖無しのブラウス…
いくつか印象的な場面はありますが、この黒い絹のドレスを纏い青年と相対したヴァニーナを作ろうと思いました。



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(海百合のイメージ、処女性のイメージから何となく白を想起していて、黒というのが唐突に思えていたのですが、過去への冥魂、弔いの黒という意味合いもあったのかな、と想像しながら制作しました。絹で黒で…たいへんに縫いづらかったけど、縫い物スキルが上がった気がします。)



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(後ろ手に結えられる赤いネクタイも大事なモチーフとして、彼女に纏わせました。)



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砂地を再現し、月明かりが差し込んだように顔にかかる光が素晴らしい舞台効果でした。

他に日焼けした水着跡とか下腹部の淡く柔らかい繁みとか…色々意匠を凝らしてありました。
展示では見えませんでしたが、誰も知らない見えない所にこっそり心血を注ぐのは好きです。




++



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「海の百合」は制作を通してやっとヴァニーナに寄り添い近づけた気がします。

読書は好きだけれども、人形制作を始めてからその時間は格段に減り、まだ手にしていない読みたい本も膨大で、普段同じお話を読み返してその印象が初読と変わる様な事はあまりないので、制作を通してゆえの事だなあ、と面白く新しい読書体験でした。





「仔羊の血」がフィ二に捧げられたように、これは後の恋人ボナに捧げた物語。能動的で行動的な女性への讃美が感じられる美しい物語です。是非一読を。


12月の予定などなど


11/1をもって【中川多理「 散聚ーー散りそして集る人と人がたーー 」】無事に終了いたしました。
1年に渡る長期巡回ツアーとなりましたが、
実働部隊として関わってくださったしもーぬさん&錆犬さん、
人形達に会いに来てくださった名古屋の皆様、本当にありがとうございました。

名古屋の方には、古民家から引き続き人形達に興味を持ってくださって
御感想やお声かけを頂きとても励まされました。
制作が落ち着いたら、また人形達も連れて名古屋を再訪したいです。


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++


このあとの予定ですが、12月のWS開催とともに
ベビ堂ミヒルさんの御協力を得て、文化人形ちゃんver.と小さな少年ver.を含む
【「イヴの肋骨」お人形付き特装BOX Limited Edition】×10をリリースいたします。


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一応、予定ではラストの10匣となります。
小さい男の子ver.はずっと出したい出したいとミヒルさんとも相談していたのですが
ラストを迎えてようやくお披露目できそうです。

大きな少年も連れて行けるかな?
お正月をはさむので、和風の子が連れていけるといいなと思っています。

詳細が決まったらまた情報を掲載していきますね。






中川多理/人形ワークショップ 

2015年12月5日[土] 12:30~18:00(途中休憩あり)
2015年12月6日[日] 12:30~18:00(途中休憩あり)
(※受付は終了いたしました。年明けに追加講座を予定しています。)

★2015年12月4日(金)~2016年1月11日(月)に開催される中川多理/人形展のスペシャルイベントです。
展覧会の情報は、決定次第夜想HPにて随時更新いたします。

会場:パラボリカ・ビス

http://www.yaso-peyotl.com/archives/2015/10/post_893.html



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