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中川多理 Tari Nakagawa 【球体関節人形&人形写真】

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アンナ・カヴァン「氷」によせて


パラボリカ・ビスにて開催された「物語の中の少女」展。
物語の中の少女、あるいは自分の中の少女の物語を描く試みでした。

人形は元来、少女(あるいは少年、幼い子供)の姿をとって表されることが多く。
その理由は、それが小さき者への庇護であったり、幼い子供の友達であったり、子供の形代であったり、ネオテニーへの偏愛だったり、未分化ゆえにこれから成長してゆく姿への期待値や可能性をも受容していたり…そういった諸々を、成り立ちから自然に人形が内包している故だと思います。

必然、普段から人形を作ることが少女を作ることに等しかったので、今回は折角の機会なので物語に著された少女の姿を追ってみることにしました。

選んだのはアンナ・カヴァン「氷」とA.P.ド.マンディアルグ「仔羊の血」の二編。







※清書するのを諦めたので当時のメモ的になりますが、「氷」の読後感と制作についてなど。
(人形自体はフラットに観て頂きたかったので、展示終了後の後出し。)





カヴァンは「アサイラム・ピース」を読んでいたものの、謎の多い作家で、サンリオSF文庫、バジリコ版からかつて出ていた「氷」は入手困難。
最近ちくま文庫からほぼ改訳で刊行されたのをこれ幸いと入手して、読み始めてすぐ夢中になり、その勢いのまま制作を進めました(スケジュールやばかったです)。

作者本人がヘロインの影響で幻覚と共に生きながら小説を執筆。
ドラッグの影響が色濃い作家としては他にバロウズ、ディックなど、幻覚・譫妄に悩まされた女性作家としてはウニカ・チュルンやキャリントンなどシュルレアリストの女性たちの小説も思い起こします。

「氷」のストーリー自体は単純で、世界が氷に浸食されていく中、アルビノの少女(実際は成人に近い女性ですが、華奢でか細く儚い容貌は少女のそのもの)を主人公の「私」が追いかけて行く。謎は謎のまま解明されず、幻覚によるヴィジョンと実在の少女の姿とが明確にされないまま混在し立ち現われ、それが単純なストーリーを複雑化しています。

でも、物語の中に存在する「何か」に出会う尊い瞬間を求めて本を手にする貴方達&私達には、お話としての整合性、起承転結など全く問題では無いでしょう。

(一応、ちくま版クリストファー・プリーストによる序文にて「これはスリップストリーム(※定義不能だけれども/読者の内に異質性の感覚を誘発する/あらゆるカテゴリー付けの外にある精神の状態 )です」と解説があって、とっつきにくさを薄めてくれています。)

迫りくる氷の恐怖、その中で何度も姿を変えて現れ消えていく印象的なアルビノの少女の姿。

手探りで霧の中を進むように、周囲で起こる不条理な現象を追い、核心には近づかない。

(「『城』のよう。長官とか出てくるし。」と夜想編集長も読後の感想として仰っていました。
 実際「非人格化」「絶望」「名前のない謎めいた権威的存在との果てしない闘い」といった点で、カヴァンのカフカからの影響は示唆されています。
 しばらく制作でカフカに関わっていたので、なぜカヴァンがここまでカフカへの親和性を持つようになったのか…と思いを馳せました。)


少女については虐待の過去など、幾つかの情報は与えられるものの、具体的な人物像は最後まではっきりとはしません。でも、この謎めいた小説を読み終える頃には白い少女のヴィジョンがありありと眼前に浮かび上がる。
少女は時にその姿だけで、重要なそして魅力的なアイコンとなる力を持つ。
ビジュアル的な圧倒的な魅力、存在感。ある意味良き少女小説としての有り様を思い出させてくれました。


ラストは世界が氷に包まれる中、それとは真逆に少女との和合によって初めて訪れる心の安息、暖かさ。
完全なディストピアの中での二人の交感と充足に心満たされる、美しい終末のヴィジョン。

夢野久作の中編に「氷の涯」という 大好きな作品があるのですが、
あのラストの二人の、絶望的でいて寂寞とした美しい情景を思い起こしました。

何度も語られる虐待の過去と繰り返される暴行、痛々しい少女の姿。の割には、具体的な描写は少なく乾いた印象なのでその辺は読みやすいかもしれません。






何度も姿を変えて現れる現実の少女と幻覚の少女と。

印象的な幾つかの場面から、

●「子供のように華奢なアイボリーホワイトの身体」「浮き出た骨は実にもろそうで」「アルビノの銀白色の髪は月光のように」といった、スタンダードな少女の姿

●「口からひとすじの血が流れ出し」「首は不自然な恰好にねじ曲げられ」「前腕の腕が折れ、手首の尖った骨の先端が避けた肉を破って突き出して」生きているとは思えない少女の姿

●「陽光を浴びた髪を青白い焔のように輝かせ、笑みを浮かべて、観衆にスミレを投げていた」スミレ色のドレスを着た少女の姿

の3シーンを制作しました。



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(子供らしさの残るAラインのワンピースを身に纏い、浸食する氷をビーズワークで施しました。)



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(あまりグロテスクな描写にはしたくなかったので、流れる血は氷を思わせる白色で。腕から突き出た骨は水晶を用いました。)



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(作中ではドレスはもっとモダンなデザインをイメージしているかな、と思ったのですが、人形的にちょっとクラシカルな方向に振りました。作っていて楽しかったです。)


何がしかの幻想をのせるために最初から削がれた存在=少女(人形)であるのかな、と
氷の少女人形を制作しながら、そんなことを思いました。






☆スミレ色のドレスの少女はパラボリカ・ビスギャラリーにて展示中です。
http://www.parabolica-bis.com/SHOP/76776/146349/list.html

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